『映画突破伝』 江戸木純/叶井俊太郎 / 洋泉社

愛は、タブーをつきぬける。

ギャガ・コミュニケーションズを経てエデンを設立した映画評論家の江戸木純と、アルバトロス・フィルムのプロデューサーである叶井俊太郎。本書は共に1960年代生まれ(つまり働き盛り)の2人のトークだ。深夜にお茶かお酒を飲みながら、だらだらずーっと聞いていたいような掛け合いだが、明け方ソファに寝転んで頁をめくりはじめたら異様におかしくて、ゲラゲラ笑いながらあっという間に読んでしまった。

叶井にとっては、会社を首になるほどやばい話であるが、 映画好きの甘い幻想を打ち砕くバクチ的な業界事情は、目からウロコのアナザー・ビュー。実話とギャグの境界線上に、捨て身の格闘ロマンがたちのぼる。

江戸木はギャガ時代、ビデオ作品の邦題を決めてコピーを書き、チラシ裏の解説を書き、ビジュアルの指示をする作業を月に15本もやっていた。しかも「映画史にまったく残らないようなものばかり」で「わざわざそんな映画を観なきゃいけないんだから、だんだん頭がおかしくなってきてね」と。時には何も観ないでドキドキしながらストーリーを書いたそう。

叶井は社運をかけた「アシュラ」を渋谷で公開中、劇場に客が一人もこない回というのを経験する。観客動員数のファックスに「ゼロ」とあったのが信じられなかった彼は「ゼロって何?渋谷には人がたくさんいるのに!」と叫ぶ。 劇場では、遅れてくる人のために1時間だけフィルムを回すそうなのだが・・・。

逆に、宣伝費をかけないのにヒットした例もある。「肉屋」という映画がそれで、タイトルに妙に反応したスポーツ紙や週刊誌が勝手に取り上げてくれ、「お願い、肉屋さん。私の熟肉(おにく)を荒々しくさばいて…」のコピーに反応したシニア層が殺到したという。「郵便屋」も同様にヒット中のようだが、アルバトロスの最新配給作品は来年公開予定の「アメリ」。これは本国フランスで大ヒットした正統派で、社員によると「この会社にいて初めて良かったと思えた」とのこと。いい話だ。

「賞が取れなくても、映画はヒットしたほうが偉いんだよ」と江戸木はいう。「観客がいちばん偉いという考え方が、日本では欠落している」とも。たしかに映画を作ることのほうが上で、配給や宣伝は下という考えはおかしいかも。「映画って、そんなに格調高いものじゃないよ。ウソだと思うなら、アルバトロスの作品を観てくれって(笑)」という叶井は、トロント映画祭で、ある日本映画を観た際に「最悪ですね。寝ちゃいましたよ」と正直に配給の人に言ったところ、プロデューサーが隣にいて会場を追い出されたという。

江戸木「ふつう、つまんなきゃ寝るよね。それって、バスがタラタラ走る映画じゃない?」
叶井 「当たり(笑)。いやぁ、恐かったよね。マジでビビったよ」

これって、どう考えても青山真治の「ユリイカ」じゃん! 自社配給の映画は嘘をついてまで宣伝するが、好みではない他社の映画には一切コビを売らない姿勢が、すがすがしい。

江戸木「僕は、上映後にお客さんが出てくる時の雰囲気がとても好きだな。『ムトゥ 踊るマハラジャ』は、みんながニコニコして出てきてくれて、それは非常に忘れがたい思い出になったよね」
叶井 「それは、この仕事をしていて、いちばん幸せな瞬間だから」

どんな業界にも暴露話はある。「会社に関わる人間はひたすら真面目に仕事をしている」なんて信じてるウブなお客様は今どき皆無だろう。 私たちは、不真面目で愛おしいオシゴトの中で一体何ができるのか? 何のためにオシゴトをするのか? あらゆる考察や革命は、本音で語ることから始まると思う。
2001-08-27