『西洋骨董洋菓子店(1・2)』 よしながふみ / 新書館

禁断の深夜ケーキの快楽。

午前2時まで営業している恵比寿のカフェ「Rue Favart (リュ・ファバー)」は、屋根裏部屋っぽい3階が落ち着ける。カップルがソファでまったりし、芸能人が夜食を食べ、ハイテンションなグループが携帯を鳴らし合うここは、隠れ家などでは決してなく、ガーデンプレイス脇という超メジャーなロケーション。たっぷりのグラスに注がれるアイスティーや、キャラメル・オレ、ホットワイン、ホットバタードラムと共に過ごす至福の時間・・・。

だが、この店の本質はそんなことではない。友人に誘われるまま、なにげにケーキを注文して驚いた。激しく美味なのだ。私は、深夜ケーキの快楽について考える。そんなことをつい考えてしまうほど、それは旨かった。

深夜に酒を飲むのは普通の行為だが、甘いものを食べるのは禁断の行為に近い。と私が感じるのは、アルコールは体に必要だけど砂糖はイケナイものと考えているせいだろうか。ふだん、変動の激しい外食産業界において確実な成長を遂げてきた株式会社グローバルダイニングの戦略に乗せられるまま、朝5時までやっている青山や代官山や西麻布のモンスーンカフェですみずみまで教育の行き届いたスタッフの愛想のよさに感嘆しつつ、絶妙な味わいの海老トーストや生春巻を食するついでにマンゴープリンやミルクレープにまで手を出したりもしている私なのだが、やはり、モンスーンカフェは一企業の戦略的なチェーン店にすぎない。

インターネットやコンビニデザートでは癒しようもない深夜の寂しさを埋めてくれるのは、ビジネスの香りから遠くはなれた「本物の愛」ではないだろうか。と信じたい。

先週からドラマ(月曜9時フジTV)もスタートしたこのマンガの舞台である西洋骨董洋菓子店「Antique(アンティーク)」の一体どこが魅力的なのか。住宅地にありイートインができて午前2時オーダーストップのこの店は、橘圭一郎(椎名桔平)が経営し、天才パティシエ小野裕介(藤木直人)が洋菓子を焼く。ここにジャニーズ系の元ボクサー神田エイジ(滝沢秀明)が見習いとして入ることから、禁断の甘さと禁断の男の世界が奇妙に交錯し、わけありの人間模様が醸し出される。

エイジがケーキをほおばり、うめえ・・・っ!!っと全身をのけぞらせる。ただこれだけのことが、どうしてこんなに新鮮なのか。その鍵は、この店でつくられる洋菓子の健全さにある。プロの手であらゆる工夫を施され、美しく仕上げられた菓子たちは、新鮮なうちに多様な客に求められる。一方、残った菓子は、エイジに手づかみされ、崩され、頬張られ、うめえ・・・っ!!と叫ばせる。そこには絶対的な愛があるのだ。洋菓子への愛。店への愛。客への愛。そして、この作品の重要なモチーフである男同士の愛。つまり、そこに表現されているのは、男女の愛や酒がらみでは表現しようのない純度の高い世界なのである。

先日の新聞に、店頭公開したネットコンテンツビジネス会社の記事があった。その会社は出会い系サイトを2つ抱えており、そこから多大な収入を得ているそうなのだが、何か問題があってからでは遅いので、近いうちにその2つは譲渡したいと社長はいう。良質のコンテンツをつくりたいということらしいが、そんな安直なポリシーでいいのか、と驚いた。ビジネスという概念は、かくも味気ない。金銭への愛に比べて、肝心の製品やサービスへの愛がなおざりにされすぎている。

出会い系サイトがうさんくさいのは、やってる人がうさんくさいからなのである。うさんくさい場所に、甘美な出会いは生まれない。西洋骨董洋菓子店のまっとうさを見よ。禁断の甘さは、健全な精神に宿るのだ。
2001-10-15