『メランコリック』 田中征爾 (監督)

バリアフリーの果ての幸せ?





東大を出たのに実家でニート生活を送るコミュ障気味の和彦は、ある夜たまたま行った銭湯で高校の同窓女子に遭遇し、彼女のすすめもあって「銭湯でバイト」をはじめる。恋の予感とともに始まったバイト生活は順調に思われたが、銭湯のダークな一面(夜は死体処理場として使われている!)を知ってしまった和彦は……

設定としては、殺し屋専用のレストランを舞台にした蜷川美花の『ダイナー』のようでもあり、展開としては、強盗たちの心理戦を描いたタランティーノの『レザボア・ドッグス』のようでもある。インディーズ系の底知れぬパワーという意味では、冨田克也の『サウダーヂ』や上田慎一郎の『カメラを止めるな!』のようでもある。

だけど、この映画はとびきり新鮮で。
描いているのは、バリアフリーな現代だ。
親と子、先輩と後輩、日本人と外国人、飲める人と飲めない人、学歴がある人とない人、働いている人と無職の人、社会的な人と反社会的な人

何気なく幸せな家族、何気なく幸せな恋愛、何気なく幸せなバイト。
そんな完全なる予定調和な日常の延長に、殺人がある。
これは、私たちの日常そのものではないか。
殺人から目をそむけさえすれば、何気ない幸せで人生を満たすことができるのだ。

俳優たちの演技の巧みさとユーモア、そして、きっちりと伏線が回収されるストーリー。
至福の釘付け体験の、あげくの果てのラストシーンとナレーションに、ふと我に返る。
これ、マジなの? ギャグなの?

和彦とともにバイトを始める松本のキャラが最高すぎる。
彼が次々と見せる意外な一面に、惚れない女子はいないだろう。

2019-8-7

2018年文庫本ベスト10

●オールド・テロリスト(村上龍)文春文庫

●億男(川村元気)文春文庫

●誰かが嘘をついている(カレン・M・マクマナス/服部京子)創元推理文庫

●ロゴスの市(乙川優三郎)徳間文庫

●無名時代(阿久悠)集英社文庫

●食の王様(開高健)ハルキ文庫

●天才はあきらめた(山里涼太)朝日文庫

●ウドウロク(有働由美子)新潮文庫

●日本百名宿(柏井壽)光文社知恵の森文庫

●座右の古典(鎌田浩毅)ちくま文庫



2018-12-31

2018年洋画ベスト10

●メアリーの総て(ハイファ・アル=マンスール)

●セラヴィ!(エリック・トレダノ/オリビエ・ナカシュ)

●判決、ふたつの希望(ジアド・ドゥエイリ)

●フロリダ・プロジェクト(ショーン・ベイカー)

●つかのまの愛人(フィリップ・ガレル)

●クレアのカメラ(ホン・サンス)

●告白小説、その結末(ロマン・ポランスキー)

●心と体と(エニェディ・イルディコー)

●ハッピーエンド(ミヒャエル・ハネケ)

●早春 デジタル・リマスター版(イエジー・スコリモフスキ)



2018-12-31

2018年邦画ベスト10

●勝手にふるえてろ(大九明子)

●きみの鳥はうたえる(三宅唱)

●生きてるだけで、愛。(関根光才)

●億男(大友啓史)

●寝ても覚めても(濱口竜介)

●カメラを止めるな!(上田慎一郎)

●万引き家族(是枝裕和)

●リバーズ・エッジ(行定勲)

●ミッドナイト・バス(竹下昌男)

●オー・ルーシー!(平柳敦子)



2018-12-31