『サプリ(1~4)』 おかざき真里 / 祥伝社


月9広告代理店ドラマにおける伊東美咲と亀梨和也のリアリティ。

フジ月9ドラマ「サプリ」から目が離せない。
主役はCMプランナーの藤井(伊東美咲)とアルバイトのイシダ(亀梨和也)。ロケ地は東銀座のアサツーディ・ケイ本社。この手のオフィスラブものには以前から引っかかるものがあったが、うちの両親が出会ったのは、母が勤めていた丸の内の某社で、そのとき父は学生アルバイトだったのだと先日知った。マンマミア! 父のトレンディドラマ好きは、そういうことだったのか? 「サプリ」も見ているに違いないが、感想はこわくて聞けない。

「サプリ」には、外からの視点がある。イシダ(亀梨和也)は、アルバイトならではの、お気楽でちょっと鬱陶しくて、だけど新鮮な空気を運ぶ若者を好演しているし、フリーコピーライターの柚木(白石美帆)という個人的に見逃せないキャラも登場する。火花を飛ばしあう営業の田中(りょう)と制作の藤井(伊東美咲)の2ショットは<資生堂のモデル×2>にしか見えないけど、広告代理店にキャッチーな美女が多いのは事実。先日、電通本社で受付の女性たちを前にして、私と一緒にいたイシダ(亀梨和也)に似ていなくもないコピーライター志望のNは「全員エビちゃんに見える!」と叫んだくらいだ。

原作を読んだが、著者はかつて博報堂に勤めていたそう。このリアルは<広告代理店勤務>と<フリー>の両方を経験した<女>にしか描けないと思う。原作には、柚木が仕事を切られるシーンもある。「彼女、女の割に高いんだよねー料金。変にこだわるしさあ。使いづらいよなー」って。

仕事で疲弊して、毎日がいっぱいいっぱいで、考えること山積みで、それでも恋愛よりはラクで、とはいえ本当に大切なものが何かは年齢と共に問われていて、不倫や二股や三角関係や片思いやいろいろあるけど、救いというのは案外小さな部分にあって、どんなに忙しくてもそれだけは見落とさず、大事にしてつなげていくことが人生だっていう、そんなことを「サプリ」は気づかせてくれる。

「化粧品とか 服とか 流行とか おいしいものとか
武器はそろっているのに いっぱいあるのに
たったひとつ持ってないもの かわい気」

「このまま光速で働いたら 女以外の別の生き物になれそうな気がする
もしかしたら 私はそのために働いているんじゃないかしら」

「仕事がありがたいのは 他人とご飯が食べられることだ
あたり障りのない会話をする
おいしく食べるためにみんなで気を遣い合う
食事をキチンとエネルギーにする時間 大切なことだと思う」

「会社っていうのは『失敗を少なくする』というシステムだ
何事にもフォローする人がいてノウハウがある
その分個人の気持ちが置いていかれたとしたも
それが『みんなで仕事をする』ということです」

「仕事も私の一部なわけで
しかもそのウエイトがかなりの割合を占めている私は
それをはずされたとたんに途方にくれる」

「だって疲れた顔した女に仕事頼もうと思わないでしょ?
笑顔ひとつで仕事回るなら安いものよ」

藤井を見て思い出すのは、某広告代理店の先輩ディレクターS。彼女はいつも夜遅くまで会社にいるが、いきなり電話すると意外とあっさりつきあってくれる。で、限りなく飲める。理想のタイプはと聞くと「結婚してない人!」と即答する。運転しながら助手席の私と話しながら電話も受けながら資料をまさぐる彼女を見ていると、ひとつしか集中できない私は、組織のリーダーなんかには絶対なれなくて、だからフリーなんだなと納得したりする。Sは藤井に似ているけど、やっぱり違うから、私は今日も「私家版サプリ」を勝手に構築して、頭の中で楽しむのだった。
2006-8-21

『Isole(群島)』 アントニオ・タブッキ / Universale Economica


タブッキの海。

長かった梅雨が明け、小舟という名のオープンカーで海辺の町へ行った。
夏の陽射しは、サプリメントからは摂取できないヴィヴィッドな栄養素をチャージしてくれる。
ほてった肌をテラスで落ち着かせ、ジャコメッティの彫刻を思わせる細いグラスにビールを注ぐと、水平線の近くにキラキラと輝く島が見えた、ような気がした。
タブッキの短編をつれて行くだけで、そこはティレニア海になる。

「Isole」の主人公は、トスカーナの島で刑務所の看守をしている。その日は、年金生活前の最後の仕事の日。手術が必要な男の囚人を、本土の病院に連れていくのが彼の任務だ。彼にとっても囚人にとっても、別の意味で、これが最後の旅となるだろう。船の時間はゆっくりと流れ、彼はオレンジの皮をむく。北に住む娘に宛てて、心の中で手紙を書くのだった。

仕事とプライベート、過去と未来、現実と空想が自在に入り混じって、オレンジの皮とともに海面へ消えてゆく。娘のマリア・アッスンタとその夫ジャンアンドレアのこと、彼らのもとへ行くつもりはないこと、これまでの自分の人生のこと、亡くなった妻のこと、明日からの年金生活のこと、そして、目の前の囚人のこと。

彼の想像は具体的だ。チンチラウサギを飼う計画については、飼育方法にまで話が及ぶし、これから食べるランチについては、カッチュッコ(リヴォルノ地方の魚介スープ)から始まり、メバル、ズッキーニのフリット、マチェドニア、チェリー、コーヒーまでテーブルに並ぶ。

正午前に着いた港では、犬がけだるくしっぽを振り、Tシャツを着た4人の若者がジュークボックスのそばでふざけている。ラモーナという懐かしい歌がリバイバルし、トラットリアはまだ閉まっている。彼は、赤いニスが剥げかかったポストに、囚人から託された手紙を投函する。手紙の宛名はリーザとあるが、彼は囚人の名をおぼえていない。

それらすべてが、小さな点のような群島のイメージに結晶する。
強い陽射しが水平線をきらめかせ、島が見えなくなるとき、彼の孤独はくっきりとするのだ。
タブッキの真骨頂は、海の描写だと思う。
手紙、音楽、そして、おいしそうな食べものも欠かせない。


*Piccoli equivoci senza importanza (1985)に収録
2006-08-02