BOOK
『黄昏流星群(第418話 一途の星①』 弘兼憲史
すてきなストーカー人生。
何度も映像化されている「黄昏流星群」だけど「ビッグコミック オリジナル」6月20日号の新章1回分を読み、心をかっさらわれた。子供のころから容姿コンプレックスに悩まされている相良房枝(ブサ枝)。男性と付き合うことのないまま、25歳の時、夢魔(ナイトメア)が意識の中に現れるようになる。房枝は彼をインキュバス君と名づけ恋人のような関係になる。目覚めている時も突然現れ、背中を押したりよからぬことを囁く道化のようなインキュバス君は、房枝のマイナスエネルギーから出現した悪魔でありエロスの権化なのだ。
インキュバス君が人気俳優の三田慶太郎と似ていることに気づいた房枝は、仕事の合間に三田を追いかけるようになる。ロケ地で飛ばされた帽子を拾ったことがきっかけで名前を聞かれる房枝。インキュバス君にそそのかされるまま「ブサ枝」と答えるが「キミは可愛いよ」と三田は言う。本気のはずはないが、初めてそんなことを言われた房枝は恋に落ちる。30年後、55歳の房枝は、80代で引退した三田が住んでいるはずの武蔵野市へ引っ越す。介護士の資格をとったのも、いつか三田の介護をするという夢のためで「それが出来た時、私のストーカー人生が完結する」と思う。ある日とうとう男性に車椅子を押された三田とすれ違う房枝。自宅を突きとめるとそこには「求む介護士」の貼り紙が……。房枝=夏川結衣、インキュバス君=生田斗真、三田=佐藤浩市で映画化してほしい。
これ、恵まれない人生についての話じゃない。ひとつの幸せな人生の形といっていい。堅実で安定しており、目標や夢があり、的確なタイミングでチャンスをつかんでもいる。何の問題もない。しかし何の問題もないのはここまで。この先、房枝の人生は激変するのだろう。
ミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」みたいになるのかな。房枝が、より「自由」になってくれるといいのだけど。
http://aiaikawa-rj.lyricnet.jp/2002/02/blog-post.html
2013-06-07