『ニュース★バトル(iモード新サイト)』 /

天声人語は、おやじのエッセイだ。


3月19日から、朝日新聞社と日本経済新聞社のiモード共同サイトがスタートした。朝刊の主要記事各3本と両社の人気コラムが読め、さらに朝刊記事を素材にしたニュースクイズが楽しめる。

ニュースクイズは「ニュース総合」「エンタテインメント」「トレンド・流行」「スポーツ」などの分野から毎日5問ずつ出題される。初日の「ニュース総合」では、大川功氏が会長・社長を兼任していたゲーム機メーカーの名やイスラム原理主義勢力が支配する国を選ばせ、「エンタテインメント」では、モーニング娘。を脱退した中澤裕子のソロデビュー曲「○○○の女房」を穴埋めさせていた。毎日15時半に前回の正答率、成績、ランキング、ポイント数が表示され、プレゼントや表彰もあるという。

私が注目したのは、両社が自ら「人気コラム」とアピールしてはばからない「天声人語」(朝日)と「春秋」(日経)が併載されている点。「天声人語」は大学入試問題への出題率の高さで知られるが、初日はこんな書き出しで始まる18日付けのコラムだった。「『肉なんか、ずっと食べていないよ。野菜と魚だね。その魚も用心しないと危なくてね』。パリに長年住んでいる日本人の友人夫妻の話だ。」

テーマは欧州で問題となっている口蹄疫と狂牛病。どちらも動物性飼料が感染源とみられ、「すでに何十万という家畜が、各国で殺されている」という。パリのレストランからは肉料理が減り、トリ肉や養殖の魚にも疑惑が集まり、英国、ドイツ、米国など「影響は拡大の一途をたどる」と続き、最後はこう結ばれる。「動物性飼料は、家畜を早く安く、大きくするために使われた。効率を上げようと多数の家畜を狭い畜舎に押し込め飼育する。そんな中で、微妙なバランスが一つ崩れると、伝染病が急速に広がり、パニックを引き起こす。人間の利益中心のやり方への、強烈なしっぺ返し。欧州の人びとはいま、それを実感している。」

うーん、なんだか説得力に欠けるのだ。もともと「天声人語」は友人から聞いた話を情報ソースにしている場合が多いが、今回は「魚の料理に慣れていないから、まずいの何の」という「友人の愚痴」にまで貴重な字数が割かれていた。主観と客観が曖昧なのも「天声人語」の特長だが、今回の例でいえば、最後の「実感している」がウッソー!である。欧州の人びとがしっぺ返しを実感しているなんて、どうして断言できるのだろう。せめて「実感しているにちがいない」とか「課題としてつきつけられている」などと書くべきではないだろうか。

翌日は、「春秋」が口蹄疫について書いていた。「狂牛病に続いて家畜の伝染病である口蹄(こうてい)疫の感染も広がり、欧州は大騒ぎだ」という一文から始まり、欧州各国の対策、続いて「欧州の食文化の"異変"は文明論的なテーマかもしれない」と仏文学者の鹿島茂さんの著作を引きながらフランスの肉食文化の由来に言及。最後はこう結ばれる。「肉食文化の浸透は産業革命や国際貿易進展と一体だった。域内の物流の国境が消えたはずの欧州連合(EU)諸国でいま、口蹄疫ウイルス流入を恐れる農民が国境に集まり、トラックの列に目を光らせる。市場一体化の時代に、予想もしなかった反動が生じている。」

欧州全体の現状が具体的につかめ、興味をそそられる内容だ。おやじのエッセイといった風情の「天声人語」と比べ、客観的な情報として違和感なく取り込める。これからは、新聞をとらなくても、携帯電話で「天声人語」と「春秋」を比較できちゃうのである。入試問題は「春秋」から出すべきなんじゃないのー?と思う学生がふえるかもしれない。
(「天声人語」の筆者は4/1より変わります)
2001-03-20