もりあがらない二人。
「私ね、ずいぶん長いこと、男の人と寝るたびに、どうしたらいいか分からなかった。初めてではないにもかかわらず、恋が違うということは、初めてと同じで、学習しようがないでしょう」(江國香織)
「いつか、ふっとどこかへ行ってしまいそうな危なっかしさを持っていながら、わざと束縛されるのを喜ぶフリをしてみせるような狡猾な女性がいい。なんと贅沢な要望でしょう。こんな男、僕が女性なら、願い下げです」
(辻仁成)
初々しい語り口で大胆なことを言う江國と、ナルシシズム炸裂の辻。本書は、まるでメールのやりとりのようなゆるい文章で綴られた二人の往復書簡だ。辻は江國を「僕にとっては非常に珍しい真実の友の一人」「本当に稀なくらい素晴らしい間柄」と表現するが、江國はもう少し現実的。「端的に言えば、辻さんは女好きで、私は男好きなの。たぶん。で、本を書くことにしちゃったんだな」。
テーマは終始恋愛についてだが、二人の接点は意外と少なく、しかし、だからといって喧嘩になるわけでもないという非常に中途半端なテキスト。辻は江國に対し、「君が何かを言うと、僕はただ、うんうん、と微笑みながら聞いてしまう」「可愛い。なかなか言えませんね。すごい!おそれいりました。つくづく君って、かっこいい」「だからあなたはいつまでもチャーミングなんだと思います。でも」というふうに、とりあえず「年上の男」的な余裕を見せながら言いたいことを言うスタイルを貫く。一方の江國も、「こんな言い方をするなんて、辻さんはやさしい人だなあ」「辻さんの底知れぬパワーというのは、すごい。私の場合は―」「その通り! 私は辻さんの、こういう文章力を敬愛します。ただ」など、ひととおりの尊敬のまなざしを注いだ上で反論する。
辻が江國に嫌われるのは、愛のないセックスについて語るとき。「いいセックスと悪いセックス?それは一体どういうの?辻さんはときどきわからないことを言う」「恋愛抜きでセックスをしたことがないので、私にはわからないのです」ときっぱり言い放つ江國だが、このテーマも、残念ながら、それ以上突き詰められることはない。
辻が、二人の初デートについて語るくだりがある。「僕はまだ結婚していた頃でしたから、二人にはそれぞれお互いにパートナーがいました。でも、知り合ってすぐにデートをしたのです。男とか女だとかに区切られない爽やかなデートでした」。これに対して江國は、「なぜ恋愛関係にならないのか?(中略)私は自分が守られたいほうだから、恋をしないんじゃないかなあ。それに、やっぱりVERY BESTになりたいから、相手にとって」と言っている。
「男好きな女」と「女好きな男」がデートして、互いに好きだったら普通、恋に落ちるんじゃないかなー。文脈から判断するに、辻は江國のハートに火をつけるほどの存在ではなかったようだ。それにしても「男とか女だとかに区切られない爽やかなデート」って一体何なのか? 作家なら、そこんとこを、きちんと突き詰めて表現してほしかった。
2001-07-03