『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ 』バンクシー(監督)

限りなくイタズラに近い映画

 
 
 
 
術館へ行くと、ミュージアムショップの広さと充実ぶりに驚くことがある。
「EXIT THROUGH THE GIFT SHOP(ギフトショップを通り抜けて出口へ)」というこの映画のタイトルは、商業的な美術マーケットを皮肉っているのだろう。ストリート・アートに関するドキュメンタリーだが、映画自体がストリート・アートのようでもあり痛快だ。

古着屋を営むティエリーは、趣味のビデオカメラでストリート・アーティストを追いかけ、撮影している。ストリート・アートは非合法の落書きのようなものだから警戒するアーティストも多いが、ティエリーは彼らと一緒に危険な場所にのぼってアシスタントをつとめたり、警察に捕まらないよう見張りまでするから、彼らも受け入れてしまうのだ。

覆面アーティストのバンクシーにもようやく会え、条件付きで撮影を許可される。バンクシーは、公衆電話を壊したり、イスラエルとパレスチナを隔てる壁に穴の絵を描いたり、美術館に自分の作品を勝手に展示したり(大英博物館はその後、彼の作品をコレクションに追加した)というゲリラ的なパフォーマンスで知られる人。映画では、2006年、ディズニーランドのビッグ・サンダー・マウンテンのコース脇に、キューバのグアンタナモ収容所の囚人を模した人形を置いた際の、取り調べの顛末が明らかにされている。グアンタナモ収容所は、テロとの戦いの象徴として拷問などが問題視された場所だ。

ティエリーは膨大な記録ビデオを編集するが、それを見たバンクシーは、彼には映画監督の才能はないと判断し、ストリート・アーティストになるようアドバイス。立場は逆転し、バンクシーがティエリーを撮り始めるのである。この映画は、絵も描けない素人が一日で有名になりデビューするにはどうしたらいいかという無謀なプロジェクトの記録だ。さすがバンクシー、ただものじゃない。壮大ないたずらをアート界に仕掛けたのである。自分に近づいてきたマニアからカメラをとりあげ、「お前のほうが俺より面白い」と自分は覆面のまま、身軽な映画に仕立ててしまった。実際、ティエリーはその気になり、かなり無茶をする。

ストリート・アーティストの反骨精神を骨抜きにするのは、取り締まりではなく、作品を絶賛し、高く買い上げることかもしれない。作品として扱われ、高い値段がつけられ、美術館に飾られたストリート・アートって一体何なの?と思う。落書き禁止の場所が増えた代わりに、指定の場所にどうぞ描いてくださいなんて言われたら、一体どうすれば?

最終的に暴かれるのは美術マーケットの滑稽さか、それともストリート・アートの暗澹たる未来か。

映画が終わってロビーに出ると、関連商品やグッズに人が群がっていたけれど、私は売店を通り抜けて、身軽に渋谷の街へ繰り出すことにした。
2011-07-26