疑似恋愛のパワー。
マラソンの高橋尚子をシドニーオリンピックで金メダルに導いた名監督の本。報道ではわからなかった彼の強い信念が伝わってくる。小出監督は、単なる飲んだくれのオヤジではなかったのだ!
女子チームを率いる仕事には相当な気配りが必要で、中でも「えこひいき」は厳禁だという。だが、小出監督は、選手がふてくされたときにも、タイミングを見定めて絶妙な言葉をかけ、彼女の顔をぱっと輝かすことができる。ふだんから「必ず口に出して」「本心から」「くりかえし」ほめることを忘れないし、試合に同行できないときは、深夜に国際電話をかけ、直前まで親身に指導する。しかも、こういうことを一人ひとりの選手のタイプや生理に合わせてやっているというのだから、驚異的なマメさである。
年の離れた恋人同士にも見える小出監督と高橋尚子だが、監督のアプローチは、まさに疑似恋愛モードだ。「こちらが誠意を示して一所懸命になれば、必ず相手も一所懸命になってくれる」「こっちが手を抜くと必ず相手も手を抜く」「可愛がってあげれば、必ず心が通じる」「彼女がどういう言葉を掛けたら喜んでくれ、何をいったら傷つくのかということを、あらかじめ把握しておくことが大切」- これらはコミュニケーション論であり恋愛論でもある。男性が読めば、意中の女性の落とし方がわかるだろう。
小出監督に巡り合えない普通の女たちは、どうやって自分の夢を実現すればいいのか? 素直であること。柔軟であること。冒険すること。楽しむこと。不安を感じなくなるまで練習すること。 要は「保守的な思い込みの呪縛から逃れること」に尽きると思う。恋愛をしていれば誰もが自然にできてしまうであろう、ごくシンプルなことだ。
2000-11-05